
穏やかな表情を見せていた安芸津の海。東広島市の南側に位置し、昔ながらの景色を今に残している港町だ。雲が多く、今にも雨が降り出しそうな空であったが、むしろこのような天候のほうが、この港町の良さが感じられる。これが安芸津の日常に思えた。

港に置かれていた大量の蛸壺。蛸の名産地「明石」が発祥とされており、蛸を捕獲する際に使われる壺だ。効率が悪いため、蛸壺漁を専門で行う漁師は非常に少ないと聞いている。蛸壺で捕獲されたタコは網漁と違い、タコの体が傷付きにくいため高級品として珍重されているらしい。

かき打ちの作業所兼かき直売所である「かきの小路」。現在、9軒の作業所が海沿いに立ち並ぶ。殻付、むき身などオーダーに応じて用意してもらえるので、贈答用としても喜ばれているようだ。

作業所では産卵期を終え、旬をむかえた牡蠣が水揚げされていた。ガラガラと音をたて、ケースに運ばれる大量の牡蠣を平坦に均す作業。ただひたすら黙々と作業をする姿は、牡蠣シーズン到来の喜びを全身で表現しているように見えた。

一日に作業される牡蠣の量は少ない時で約30㎏、多い時は約60㎏にもなるとの事。牡蠣の殻はベルトコンベアで運ばれていた。こちらでは牡蠣の身を取り出すことを「牡蠣打ち」と呼んでいた。牡蠣の殻を打ち割ることから、このように名づけられたそうだ。

使い込まれた作業道具たち。決して綺麗とは言えないが、道具を大切にする姿勢が強く感じられた。熟練の方々による確かな技術がこの光景を通して伝わってきた。


作業所への入口が立ち並ぶ小道では、牡蠣を打つ音がひそかに聞こえていた。作業所を覗いてみると、こちらでも黙々と作業に取り組んでいた。この地道な作業のおかげで、毎年、美味しい牡蠣を味わうことができると思うと感謝の気持ちが湧いてきた。

そして安芸津の牡蠣をいただいた。このあたりの海域は流れ込む川が少ないため塩分濃度が高く、身が引き締まっているとのこと。適度な歯ごたえが身の引き締まりを感じさせ、噛めば噛むほど牡蠣の旨味が口いっぱいに広がっていった。これからの季節、さらに美味しくなるというから楽しみだ。