中津川のほとりに建つ「岩手銀行赤レンガ館(岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館)」は、明治44年(1911)、およそ今から約100年前に建てられた。設計は東京駅でも知られる、辰野金吾と盛岡出身の建築家・葛西萬司の建築設計事務所によるもの。辰野金吾が設計した建築では東北地方に残る唯一の作品となる。

赤レンガ造りに緑のドームとルネッサンス風の輪郭を持つ建築は、当時の洋風建築の特徴をほぼ完全な形で備えており、盛岡のシンボル的な存在感を放つ。

青森ヒバが使用された建物内装は、震災による大きな被害を免れたため、内装部分・梁・筋交いなど、建設当時のままが残っている。また、通りに面した壁面は、2階がアーチ窓の開き戸、1階は上部に装飾のある上げ下げ窓と、変化がつけられている。

メインエントランスから入ったところには、搭屋の形をした八角形のスペースがあり、上を見上げると美しいドーム下の天井があらわれる。

2階への階段は3ヶ所あり、手摺もふくめ、すべてケヤキ材が使われている。南西にある表の階段は、総会室に通じ、賓客をもてなす意味もあって、ゆったりとした贅沢な造り。手摺子(手摺の下の縦棒の部分)の楕円状のモダンな意匠がリズミカルにつづく。

東京駅に限らず、辰野金吾の天井装飾は名作ぞろいだ。

約91万個の岩手県産レンガを積み上げた外壁に、白色花崗岩を使って白いラインが配された「岩手銀行赤レンガ館」。この辰野金吾の特徴的な建築デザインは、東京駅同様に、時の風化にもまったく色あせることがない。
写真:乃梨花