
京成稲毛駅から徒歩約7分の場所に位置する洋館。ここは東京浅草
「神谷バー」や茨城県牛久
「シャトーカミヤ」を経営した神谷伝兵衛の別荘である。伝兵衛は明治・大正時代に、フランスワインの醸造技術を導入したことでも有名で「ワイン王」と呼ばれた実業家だ。かつて稲毛海岸は、眼下に海が広がる風光明媚なリゾート地だったため、多くの富裕層が好んだ。伝兵衛もその一人で、晩年の4年間をこの別荘で過ごした。1997(平成9年)年、国登録有形文化財に指定されている。

海外のリゾートホテルをイメージさせるバルコニー。床にはモダンな市松模様のタイルが敷かれている。当時の伝兵衛は、目の前に広がる海を眺めながら、豪華な朝食でも食べていたのだろうか。


1階は本格的な洋風建築となっている。玄関に吊るされているシャンデリアには、付け根部分に葡萄のレリーフが施されている。ワイン王と呼ばれた伝兵衛らしいこだわりである。

この洋間は改築されているらしく、全てがオリジナルではないそうだ。床は寄木が張られており、繊細かつ豪華な造りとなっている。個人的に気に入ったのが椅子である。一見派手に思えるが、周りとのバランスが取れており印象的であった。

2階へとつづく階段は、ゆるやかな曲線がとても美しく、白い壁とワイン色の床も相性が良い。洋の空間と和の空間をつなぐ役割を、充分に果たしている階段だ。

2階は一転して、驚くほど純和風な空間だ。到底、同じ建物内とは思えない。しかし、このギャップが伝兵衛別荘の魅力なのかもしれない。主となる12畳の和室は、畳敷きの廊下に囲まれており、障子を隔てて穏やかな空間が確保されている。南側から差し込む日光が心地よい。