琵琶湖舟運の拠点~滋賀の都~を歩く
<滋賀県大津市①>

天智天皇は、667年に都を大津に移したが、わずか5年でこの世を去り、都はまた飛鳥へ戻されてしまった。残念ながら大津京は、現在の市街地の下にあたるので発掘が難しく全容はわかっていないが、5年とはいえここには都があったのだ。もちろん“津”という名称のとおり、大津は古くから琵琶湖舟運の拠点として栄えた港町。江戸時代中期に北前船の西廻り航路が開発されるまで、北国から都への物流は敦賀で荷揚げされ、いったん陸路を経て塩津などへ、そして琵琶湖を経由して、また大津から陸路を辿って京都へというルートが主流であったといわれる。
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鉄道での大津への入口はJRなら膳所駅だろうが、やはりここは京阪京津線で行くのが魅力的だ。写真は浜大津の駅を出て、左に大きくカーブし京都方面へ向かう800系。これは京都地下鉄東西線への乗り入れに伴って新造された車両で、急勾配や急カーブまた一部は路面並走という複雑な軌道を走る京津線、それと京都市営地下鉄との直通運転をするために、多機能な車両とするため多くの最新機器を搭載しているのだという。なんでも車両1mあたりの価格は、新幹線に匹敵するほど高価なのだそうだ。

浜大津の駅を降りると、芝生の公園のむこうに遊覧船乗り場やヨットハーバーがあり、はるかに琵琶湖が広がっている。ちょっと面白いと思ったのが“外来魚回収BOX”なるもの。ブラックバスやブルーギルはリリース禁止、この箱へ入れましょうとある。生態系を維持するには地道な努力が必要なのだろう。

さて町中へ足を踏み入れると、趣のある民家や商家がまだたくさん残っている。板塀の続く路地を抜け、小さな寺院が点在する町筋、アーケードの商店街。ふらふらと町を歩いていると、京都ほど観光化されていないので、昭和の町がまだそのままそこにあるような光景がつづく。

こちらの民家には国の登録有形文化財のプレートがついていた。もちろん現役のお住まいで、観光用の建物ではないので説明版等もないが、こういう住居を大切に使用されているところに、歴史を大事にするというプライドを感じる。

長等のほうへ少し歩くとあるのが「大津絵の店」。大津絵は、かつて東海道を行き来する旅人に人気のあった民画で、発祥は江戸初期といわれる。旅人相手に量産する技術は大津絵独特のもので、素朴かつ大胆な風合いが魅力的である。一時は消滅の危機にあったそうだが、明治にこの店を開いた初代高橋松山以降、いまは四代目松山と五代目信介の二人が、日々制作に励んで伝統を守り続けている。

この写真は、街路沿いに飾られている、大津絵を転写した陶板のひとつ。大津絵のモチーフのひとつ、風刺画であるが、なかなかウィットが効いていて面白い。画題は「猫と鼠の酒盛り」。酒を呑んでいる猫に、鼠が唐辛子を肴に差し出している。「聖人の教えを聞かず終に身を滅ぼす人のしわざなりけり」と詞書が添えられる。猫は酒の享楽に蠱惑され鼠を捕る仕事をせず、鼠は猫におべっかを使っているがいつ喰われるかわからない。ひょっとして、この唐辛子というのは鼠の悪知恵なのだろうか?なかなか考えさせられる絵だ。

「大津絵の店」から通りの奥を望むと、石造りの鳥居のむこうに「長等神社」の大きな朱塗りの楼門が見える。長等神社は、天智天皇による近江大津宮への遷都にともない、都の鎮護として須佐之男命を祀ったのが始まりといわれる。

神社の前には大津絵民芸房があり、町の風景としてもよい佇まいを見せている。

神社を出て左手の方へたどってゆくと、琵琶湖疏水が長等山トンネルへ入る場所に出逢う。明治維新の東京遷都による衰退を懸念して、京都の産業振興のため、自然の高低差を利用して琵琶湖から京都へ水を運ぶ水路である。この付近の標高は、およそ平安神宮の鳥居の高さと同じなのだという。長等山トンネルは疏水の工事のなかでも最大の難関だったそうで、日本ではじめて竪抗から両方へ掘り進むという工法が採用されたのだという。京都側の南禅寺の水路閣やインクラインなどは有名だが、山を越えて京都まで流れているのだという実感は、ここへこないとわからない。

これを山の方へ行くと、三井寺「長等山園城寺」の入口がある。境内でもひときわ威容を誇る国宝・金堂は、1599年豊臣秀吉の正室・北政所によって再建されたもので、桃山時代を代表する建築といわれる。

一切経蔵は室町初期の建築とされ、堂内には高麗版一切経を納める回転式の八角輪蔵があり、荘厳な空間をつくりだしている。また唐院潅頂堂とならぶ三重塔は、1601年に徳川家康が寄進したもので奈良より移築されたものという。広い境内には、その他中世から江戸へかけての建築物、仏像、絵画、工芸品など、多くの国宝や重要文化財が保存されている。この日は平日の午前だったせいもあるが、境内にはほとんど人影もなく、木立の中では鶯はじめたくさんの鳥の鳴き声が響き森閑とした空気を存分に味わうことができた。

さて坂本へ向かうため京阪電車の駅へ歩いていたら、600形「響け!ユーフォニアム」のラッピング電車に行き会った。こういうかわいらしいラッピング電車やイベント列車などが、ローカルな石山坂本線を盛り上げている。

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レポーター

岡崎 聡

「町旅」編集部

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