山手西洋館めぐり#05 ベーリックホール(1F)
〈神奈川県横浜市〉

エリスマン邸と通りを挟んだところに、山手の丘の中でもひときわ目を引く瀟洒な豪邸「ベーリックホール」があります。この邸はイギリス人貿易商B.R.ベリック氏の邸宅として、1930(昭和5)年、アメリカ人建築家J.H.モーガンにより設計されました。山手の西洋館の中でも延床面積約200坪(敷地は600坪)は最大規模で、建設当初はベリック夫妻と当時すでにベリック商会に勤務していた子息の三人で住んでいました。
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建物はスパニッシュスタイルを基調とする木造二階建て・地下一階からなります。外観からは一見、石造りの家のように見えますが、実は木造(注:地下のみ鉄筋コンクリート造)です。外壁は明るいベージュ色のスタッコ仕上げ、四つ葉と方形が組み合わされたクワットレ・フォイルのガラス小窓、瓦屋根をもつ背の高い煙突など、ベリック邸には、このような多彩な装飾が特徴として見られます。
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玄関ポーチのアーチにはレンガ色のスクラッチ・タイルの縁取りが施されており、アーチの開放的な印象がより強められています。
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美しいアイアンワークは、玄関扉、階段手すりや入り口、窓枠など邸の随所に見られます。
鉄の造作cr
同じスパニッシュスタイルで共通のモーガンによる設計のラフィン邸(山手111番館)と比べると、ラフィン邸のスパニッシュな要素は正面のファサード部分のみに集中し、他の部分にはあまり見受けられないのに対して、ベーリックホールでは、外装と内装を合わせた建物全体にまんべんなくスパニッシュな意匠と装飾が見られます。
hall
化粧梁の組天井になっている高い天井に暖炉を備えたこの広い居間は、建物の中でもひときわ目を引く空間です。居間とつながるポーチ(パーム・ルーム)には、3連アーチの開口部が設けられ、開放感いっぱいです。またこの居間へは玄関ホールから3段のステップを降りてアプローチする設計になっているため、劇場的な効果も感じられます。ベリック氏がフィンランド領事の仕事をしていた時や、この建物がセント・ジョセフの寄宿舎として使用されていた頃には、この居間でダンスパーティも開かれたそうです。
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居間に付属の「パーム・ルーム」は北側に位置するため、サンルームほど陽は入りませんが、用途は同じものです。建設当初は眼下に広がる港を眺めるのに絶好のロケーションだったようです。また名前のパーム・ルームの意味がPalm(やしの木)Roomであることから考えて、おそらく当時はこの部屋に観葉植物などをいくつも置いて、南国コロニアル風の居心地の良い伸びやかな空間に仕立て、休憩室などに利用していたのでは?などと想像されています。
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この部屋の床にも建物の入り口と揃いの白黒の市松模様のタイルが敷かれており、モダンでリズミカルな印象を視覚的に生み出しています。
壁泉
このパーム・ルームには写真のような獅子の噴水口を持つ壁泉がついています。壁泉の壁部分は、当時の石積み風のテクスチャーを再現するために化粧目地や雲母の片を混ぜて復元しています。このサンルームに当たる場所に壁泉があることなどから、ベリック邸は専門家から見ても、かなり本格的なスパニッシュ建築に分類されています。
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下から見上げると化粧梁の組天井の雰囲気がよくわかります。向かって右側に据えられた暖炉と背中合わせに建物の外にも、獅子の噴水口を持つ壁泉が設けられています。
階段セット2
入ってすぐの玄関ホールにも居間のパーム・ルームの床と揃いの白と黒の市松模様のタイルが敷き詰められています。不思議の国のアリスに出てくる床を連想する人も多いようです。
階段とこ2
階段の手すりの先端部分にはオウム貝のような渦巻型の意匠がほどこされています。手すりへと伸びて続くアイアンワークも渦を巻いて弧を描くもので、揃いの意匠になっています。
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玄関ホールを介して、居間と反対側に位置する客間。現在はこの邸の受付が置かれています。他にも館のミニチュアや案内リーフレットなどが飾られています。
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客間からつながる食堂。食堂からは、配膳室や台所などのパントリーへとつながっています。また、この客間の雰囲気は、同じモーガンによる設計のラフィン邸(山手111番館)のホールや食堂の雰囲気ともよく似ています。ためしに両者を比べて見るのも面白いかもしれません。
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寄木細工のような食堂の床に、窓から差し込む光が織りなす模様。アンティークデザインのフロアスタンドにレースのカーテン、アールデコ柄のカーペットなどで醸し出される落ち着いた品の良い佇まいにしばし時を忘れてぼおっとしてしまいました。
シンク
この邸の水まわり。蛇口やレバーの形状にもアンティーク・テイストが感じられ、どこかエレガントです。
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ボイラー室と倉庫の並ぶ地下へと続く階段。突き当たりは洗面所です。こちらは地下室へと続くので、表の公的な空間を意識した華やかなつくりとは対照的に、家のバックヤードを感じさせる地味な造りになっているのが、印象的でした。(後編へつづく
 
写真:乃梨花

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乃梨花(「町旅」女子部)

ひとり暮らしの猫飼い人ゆえの
ショートトリップ派
(➕日本酒党❤️)

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