上品でふくよかな都の酒、「伏見」の酒蔵めぐり
<京都府京都市>

酒造りは古来からさまざまな変遷を経てきたようだが、現在わたしたちが飲んでいる日本酒の醸造法の原型ができたのは、室町時代から桃山時代にかけてといわれている。当地は秀吉の伏見城築城とともに大きく栄え、酒造家が急増したといわれる。もちろん酒造りに欠かせないのは、良質な水である。伏見は、かつて“伏水”とも書かれたらしいが、豊富な伏流水は、カリウム・カルシウムなどをバランスよく含んだ質の高い中硬水である。江戸時代の後期には、灘の“淡麗・辛口”が江戸で評判となり、その勢いを伸ばしたが、明治に入ってからは都の洗練された“淡麗・うま口”の伏見酒が人気となり全国へ出荷されるようになったという。口に含んだときの上品で芳醇な甘い香りは、辛口酒にはないふくよかな味わいである。
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♪カッパッパールンパッパー♪というTVCMのフレーズは、一定の年代以上の人であればまず耳に残っているはず。「黄桜カッパカントリー」では、日本酒はもとより、昨今のクラフトビールブームの先駆けともいえる京都初という地ビールも出来たてで味わえる。また、黄桜の歴史や酒造りの工程などが紹介されている「黄桜記念館」ほか、河童の起源や歴史、各地の伝承資料などが展示されている「河童資料館」が面白い。敷地内では、伏見の名水が誰でも汲めるようになっているので、ペットボトル持参で水を持ち帰る人も多い。
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1919年(大正8年)に建てられた「伏見夢百衆」の建物は、かつては月桂冠の旧本店社屋だが、いまは喫茶・利酒処としてカフェになっている。利き酒セットはもちろん人気だが、仕込み水で淹れた珈琲や紅茶、スイーツも充実しているので、呑めない人でも楽しめる。大正ロマンあふれるシックな店内で、ゆったりとくつろげるのがうれしい。ちなみに写真のように石段を上がって店へ入る構造なのだが、建物自体が周囲よりかなり嵩上げされているのは、水害の多かった土地ならではの工夫なのだそうだ。
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このあたり一帯、随所に建ち並ぶ酒蔵の風景は、町歩きには絶好のロケーションだが、わけても目を引くこの長大な板壁が続くのが、寛永14年(1637)創業という月桂冠。「月桂冠大蔵記念館」では、古い酒造用具などが約400点、酒造工程にしたがって展示されており、酒造りの歴史を実感的に見ることができる。もちろん利酒処もあるので、呑みたい人もご心配は無用。記念館となっている酒蔵は、1909年(明治42年)の建造というが、そのほかの施設および酒造用具をふくめ、月桂冠では6件が経済産業省の選定する近代化産業遺産になっている。
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すこしお腹が減ったら、ここ「鳥せい本店」はどうだろうか。「神聖」の酒蔵を改装した店内は、どっしりした風格の蔵座敷。雰囲気もいいし、なによりとても美味しい鳥料理が、けっこうリーズナブルに味わえるのが魅力。
ふじおか
さて場所はすこし離れるけれど、大きな酒蔵とは打って変わって、こじんまりとした蔵だが、オリジナルな酒造りで注目されているのが「藤岡酒造」。平成6年に蔵元の急死でやむなく一旦蔵を閉じたが、平成14年に五代目蔵元・藤岡正章氏が、新しい酒蔵を建築し、蔵元自らが杜氏となって酒蔵の再生をはたした。銘柄は「蒼空(そうくう)」と名付けられ、すべてが純米酒。米と米麹そして水だけで仕込むのだという。
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店へ入ると、売り場とレジがあり、その左、座敷の向こうに瀟洒なカウンターのある酒蔵bar「えん」がある。ガラス越しに蔵のなかの貯蔵タンクを眺めながら、数種類の蒼空をいただくことができる(有料)。さすが伏見の名水で仕込んだ純米酒。とても口当たりの良い滑らかな味わい、しかも米のコクと香りがしっかり感じられる。日本酒独特の癖がないから呑みやすく、爽やかでふくよかな味わいだ。いわゆる辛口好みの日本酒党には、評価が分かれるかもしれないが、味の好みは世につれ変わるもの、個人的には上品でとても美味しいと思う。女性や若い人におすすめのお酒である。写真のグラスは、幻の米・愛山を使ったという濁りのある酒“おりがらみ”。わずかに発砲性があり、まさにシルキーな味わいが際立っている。小皿は“山うに豆腐”、酒のあてにベストマッチの逸品であった。
あぶら
この界隈には、他にもたくさんの酒蔵があるが、すべてを回るわけにはいかないし、どこでも見学や試飲ができるわけでもない。そこで、伏見の酒をいろいろ試してみたいという人におススメなのが、この「吟醸酒房 油長(あぶらちょう)」。大きなアーケードのある伏見大手筋商店街のなかにある酒屋さんである。伏見にある19の蔵元の酒を常に80種類以上揃えており、豊富な品ぞろえのなかから好きなものをチョイスして、利き酒用の蛇の目猪口ですこしずつ楽しむことができる。もちろん酒屋さんなので、気に入った酒が見つかったら買って帰ることができる(発送もしてもらえる)。
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写真に見える突出しは、ふきのとう味噌と豆腐。多種の酒を呑み比べる合間に水で口をすすぐ人がいるが、店長の説明によると、水を飲みながらだと酒の味が水っぽくなるので、豆腐で口の中を清めるのがよいのだそうだ。酒屋の中のカウンターだが、いわゆる角打ちとはちがって、明るい開放的な雰囲気でゆったり座って楽しめるので、なかなか居心地がいい。女性一人のお客さんもちらほら見かける。油長だけで扱う限定酒や瓶で買うには勇気のいる高い酒や珍しい酒など、いろんなものが猪口でいただけるのはとても楽しい。ちなみに、写真の「英勲:一吟」は四合瓶で五千円、とても旨いのだが買うにはハードルが高い。また、いくつかのつまみもメニューにあり、これがまたけっこう美味しいので嬉しくなる。あれもこれもと頼んでいると、猪口酒とはいえ、つい飲みすぎてしまうから要注意。こういうお店で、酔って乱れたりするのは、ゲスの極み。ほどよく呑んだら、心地良い夜風に吹かれながら、またふらふらと町歩きもよし、あるいはちょっと電車に揺られて木屋町あたりでじっくりというのもいいかな。

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レポーター

岡崎 聡

「町旅」編集部

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