近代日本のシルクロードを辿る⑭


まさにノブレス・オブリージュ!
数百円で入れる重要文化財の風呂
〈長野県諏訪市/岡谷市〉

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諏訪湖周辺は繭の保管に適した乾燥した気候と、製糸に欠かせない諏訪湖と天竜川という豊富な水源に恵まれていたことから、我が国製糸業の一大産地として栄えました。明治22年には全国の製糸場のうちの54%(358工場)を長野県だけで占めていたそうです。現在の諏訪湖周辺の穏やかな景観からは想像できませんが、製糸工場が立ち並ぶ当時の写真を見れば、殖産興業という現代人には馴染みのない国家の政策が当時どれほどすさまじいものだったかが、ありありと想像できます。
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夕暮れ時に灯されて浮かびあがる姿がまるでヨーロッパの古都を思わせる、諏訪湖のほとりに建つ美しい片倉館。国指定の重要文化財です。シルクエンペラーと呼ばれ、製糸業で財を成した大富豪、片倉財閥の二代目・片倉兼太郎が建設したものです。片倉製糸はヨーロッパの貴族のように儲かった財を庶民にも分け与える、つまり一方では、この片倉館の寄付のように社会貢献も行う篤志家でもありました。当時の女工さん達はもちろん、現在も市民の方々に憩いの場として親しまれながら、長く利用され続けています。120-12-2
昭和初期に建造された大理石造りの千人風呂と並ぶ片倉館の名物、204畳敷き舞台付の大広間です。吊り天井のため柱が少ない開放的な畳の空間にアンティークテイストな洋風の天井灯がよく調和していて、和室とはいえ、まるで今にも舞踏会でも開かれそうな雰囲気です。 別棟の浴室の2階には、食堂・売店のほかに広い休憩室もあり、こちらも年代物の柱のレリーフがアクセントになって、大正ロマン漂う上品なしつらえになっています。
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諏訪湖西側の岡谷市には、製糸業発展のために犠牲を余儀なくされた蚕たちの霊を祀る照光寺蚕霊供養塔(さんれいくようとう)があります。こちらは、世界恐慌さなかの昭和9年に篤志家や市民たちの寄付によって建立されました。現代人とは違って古来からの日本人は霊を信じ、天変地異や飢饉など自分たちの力ではどうにもならない厄災に見舞われた際には「祟り」を1番に心配したと言われています。この時起こったのは「世界恐慌」ですが、工場の閉鎖や失業による生活苦などで社会不安が増大した時期と重なることから「(厄災を及ぼす可能性のある霊を)鎮めよう」と古くからの意識に根付いた行動へ駆り立てられた可能性も考えられます。
 
写真:米山淳一

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