絹産業の中心地だった福島、春の花見山はまさに桃源郷
<福島県福島市>

福島市一帯は、旧信夫郡と旧伊達郡にまたがるので信達(しんたつ)地方と呼ばれる。小倉百人一首の「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに」という歌の“しのぶ”は、この信夫という地名と忍ぶ恋をかけてある。文知摺(もちずり)とは、乱れ紋様をつくる染色技法で、当時の都人は遠い陸奥の風物に遥かなロマンを感じていたのではないだろうか。
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信達地方は、幕末から養蚕が盛んになり、戦前は福島盆地全体に桑畑が広がっていたという。いまや東北有数の桜の名所となった「花見山公園」も、もとは養蚕農家が副業として花を栽培したことに始まる。公園と呼ばれてはいるが、ここはいまも花卉園芸の畑(私有地)であり、地主の厚意により公開されているものである。畑なので、花の種類が多様で手入れも行き届いており、春にはまさに“桃源郷”と呼ぶにふさわしい。
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福島盆地は全国でも珍しく、盆地のまん中に、小山「信夫山」がぽっこり浮かんでいる。盆地が陥没したときの残丘だそうだが、この中腹にあるのが「岩谷観音」。平安末期~鎌倉時代に起源がある磨崖仏群である。
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信夫山の上には、ねこ神社こと「西坂稲荷」がある。昔ここに住んでいた悪さをする狐の伝説と、ネズミからカイコを守る養蚕の守り神=ねこが、いつしか結びついて「ねこ稲荷」と言われるようになったそうだ。いまは“ねこを幸せにする稲荷”として親しまれているので、ねこファンの人はぜひ訪れてみたい。
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ここ福島は、東北初の日本銀行出張所(のちに支店)が開設されたところ。それはここが、絹産業の中心地として、物資やカネが集積するとろだったからだ。その日銀支店長の役宅として昭和2年に建てられたのが、この「御倉邸」。かつての日本建築の雰囲気を楽しむことができる。
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養蚕王国だった福島は、戦後の絹産業衰退にともない、桑から果樹への転作が進み、いまは果樹王国といってもいい。なかでも桃は、山梨に次いで生産量が全国2位。桃といえば福島、当地を代表する名産品である。
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では、ちょっとローカル線の旅を楽しもう。ということで、福島交通の飯坂電車「いい電」に乗る。終点の二つ手前が「医王寺前」駅。「医王寺」は、当地を治めた佐藤氏の菩提寺で、安置される薬師如来は空海の作と伝わる。また、奥の細道の途次で「笈も太刀も五月にかざれ紙幟」と、芭蕉がここで詠んだ句の碑もある。笈(僧が背負う木製の箱)は弁慶のもの、太刀は義経のものとして寺に伝わったもので、笈はいまも宝物殿に展示されている。
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「いい電」の終点は、「飯坂温泉」。温泉の起源は縄文まで遡るといわれ、ヤマトタケルがこの湯で癒されたという伝説もある。ほかにも、芭蕉はじめ、西行、正岡子規、与謝野晶子、ヘレンケラーなど、多くの文化人・有名人が訪れている。古くから東北を代表する温泉といっていいだろう。山中の秘湯も魅力があるが、こういう歴史的由緒のある温泉で、先人の業に想いを馳せてみるのもすばらしい。

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レポーター

岡崎 聡

「町旅」編集部

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