【隅田川沿いの下町風景①】柳橋あたり
〈東京都台東区〉

神田川が隅田川にそそぐ所にある柳橋とその周辺は、古くから隅田川の船遊び客の船宿が多く並び賑わっていました。この神田川を挟んで手前の台東区と対岸の中央区の区境に架かる橋は、遡ること元禄10年(1697)に木造の橋が架橋されたのを初めに、昭和4年にかけられた現在の鉄橋が3つ目となります。明治20年(1887)に架け替えられた2つ目の橋は、関東大震災で焼失し、橋とともにこの一帯も、当時は焼け野原となりました。
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幕末・明治以降には、柳橋は花街(花柳界)としても名を知られるようになります。交通の便のよい隅田川沿いという要所に位置し、風光明媚な色彩を帯びた街として栄えていきます。最盛期には、料理屋、待合あわせて62軒、芸妓366名の規模を誇りました。その頃の名残りとして橋には「かんざし」のレリーフも飾られています。
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浅草橋に立ち、両国方向に向かうと緑のライトに照える柳橋が見えます。このようにいまでも川沿いには多くの舟宿が並び、夜になると川面に並んだ船に灯りがともって、華やかな色彩を帯びてきます。
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神田川をはさむ柳橋のたもとにあるのが、柳橋名物の二つの『小松屋』。こちらは季節の佃煮を扱う店で、舟宿の『小松屋』の主人の兄弟が昭和28年に開いたという店です。なんでも昔、舟宿は冬の寒い季節にはあまり客がなく、そのため副業として佃煮などを販売していたのが本業に発展したそう。それら商品の佃煮の中では「一と口あなご」がどうやら人気のようです。
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もう一方の『舟宿小松屋』は舟宿の老舗として知られる店。大正のはじめに堀に湧いた魚を釣りに来る人達に田舟を貸すのを生業とし、その後、両国橋の近くの一ノ橋で網船一艘で商売を始め、昭和2年に釣り船、屋根舟、網舟、涼み舟、汐干舟と看板を掲げるようになったそうです。
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もう1つ、柳橋といえば老舗の料亭『亀清楼(かめせいろう)』も忘れてはなりません。創業はなんと安政元年(1854)。現在は上階がマンションの近代的なビルですが、3階建ての木造建築だった明治の頃には井伊直弼や伊藤博文がよく利用した店としても知られています。文学作品では、森鴎外の「青年」や永井荷風の「牡丹の客」、舟橋聖一の「花の生涯」などにも登場する店。また国技館に近いため、古くから横綱審議会も行われています。
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現在では河岸がすっかりコンクリートで覆われてしまった隅田川ですが、昭和24、25年のまだ護岸工事のされていない高い堤もない時代には、料亭の前には張り出し桟橋が大川(隅田川)に突き出る形でかかっていました。客は川岸の料亭に舟で訪れ、川を上ってその足でまた吉原へ繰り出す、などの粋な江戸遊びを楽しんでいたそう。今から見れば、風流の極み。うらやましい限りです。
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亀清楼の老舗懐石料理は、ランチでも堪能できるところが魅力。『両国御膳』(2,100円)の豚角煮は、何度でも通って食べたくなるおいしさ。角煮が盛り付けてある器からも老舗の名店で長く愛用されてきたような風合いが感じとれます。
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ほかにも浅草橋から柳橋の間の神田川沿いには船宿がたくさん並びます。浅草橋駅から一番近いのが、徒歩2分で行ける『三浦屋』。貸切り以外にも、週末だけの乗り合い船もあり、カップルや夫婦で利用できるところも魅力です。
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浅草橋に立ち秋葉原方面を眺めると、三浦屋の船のひときわ鮮やかなピンクやブルーの屋根が目に入ります。
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浅草橋から柳橋にかけて川沿いに建つ『田中屋』。浅草橋のすぐ手前にあります。
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船宿の店先に咲いていたアニソドンティア。洋名にそぐわず和の情緒が感じられる花。
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『あみ春』も昭和漂う川辺の船宿の独特の佇まいで魅力的です。
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向こう岸から見た『あみ春』の屋形船。夜には赤い提灯に灯がともり、川辺を彩ります。
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柳橋から浅草橋方面をのぞむ景色。このあたりも昭和の初め頃までには、風情あふれる川沿いの景色が広がっていました。
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過ぎ去りし時代の絢爛な花街の情景はすっかり影を潜め、殺風景なコンクリートのビル群に変わってしまった柳町。赤い朱塗りの『篠塚稲荷』と黒板塀(閉店した『割烹伝丸』)がかすかな名残りを留めます。
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花柳界の面影を残す民家も。明治期には新橋とともに「柳新二橋」(りゅうしんにきょう)と称され、一流の芸妓(げいぎ)を誇っていました。
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石塚稲荷神社には、鳥居入口の左に「柳橋料亭組合」、右に「柳橋芸妓組合」の文字が歴史の証人のように静かに刻まれています。
 
写真:乃梨花

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乃梨花(「町旅」女子部)

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